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【Books】オデュッセイア 意思能力喪失への備え

2018.06.25

自分が今までのように意思決定できない時が来るとは思いたくないものです。しかし、それは多くの他人を見ていれば自明のことなのですが、人は常に自分だけを例外としたがるようです。

JOHN WILLIAM WATERHOUSE - Ulises y las Sirenas (National Gallery of Victoria)

トロイア戦争の英雄であるオデッセウスは、そのトロイア戦争からの帰国の途上にいよいよ美女セイレンが(siren サイレンの語源)いる島を通過しようとしています。そのセイレンはその容姿の美しさに加えて、その甘い歌声で船乗りを狂わせ、暗礁に乗り上げて遭難させてしまうのです。オデッセウスはあらかじめ魔女のキルケからセイレンの美しさと歌声の危険について聞いていましたが、想定されるリスクを回避した上で、その甘い歌声を是非一度聞いてみたいと決心したのです。

そこで、オデッセウスは、部下の船員に自分をマストに縛り付けて動けないようにさせ、自分がなんと言おうと縄を解いてはならないと指示します。さらに部下の両耳をロウでふさいでしまい、部下にはセイレンの歌声が聞こえないようにしてセイレンの島へ向かって行ったのです。

そしていざ、セイレンの島に近づいて行き、彼女たちの裸の美しい姿や甘い歌声を聞いたオデッセウスは、想定通り、居ても立ってもいられなくなり、部下に縄をほどくように指示します。しかし、予めオデッセウスから何があっても縄を解いてはならないと指示されていた部下たちは当初の命令を守り通したのです。
このオデッセウスの事前の意思決定の結果、オデッセウスの船はセイレンの島から無事離れることに成功しました。
私たちも、いつも自分で意思決定ができるとは限りません。
自分の死後に、お世話になった家族・知人にお礼を言うこと、葬儀を司ること、財産の分配を決めることもできません。

また、生きている間にも、脳梗塞や認知症などで、判断能力が減少する、もしくは全く失ってしまうこともあります。このように、我々の周辺にもセイレンが跳梁していると言ってもよいでしょう。少なくとも我々が死ぬことは間違いないので、すべて想定済みのリスクだと言えます。

あなたは、意思能力を失うリスクに対して、備えているでしょうか?そうでなければ、あなたの船はセイレンの島の暗礁にぶつかって、家族や知人ともども砕け散ることになるかもしれません。
さて、サイレンを鳴らして警告するセイレンに太刀打ちできるでしょうか?