【Books】ガリバー旅行記 不死人間 ストラルドブラグ
国王はガリバーにこう言いました。
「なんなら、不死人間を二人ばかりお前の国に送ったらどうか、そうしたら故国の者たちも死を恐れなくなるのではあるまいか、」※
「ガリバー旅行記」を子どもの頃に読んだという人は少なくないでしょう。しかし、ストラルドブラグの話は載っていなかったのではないでしょうか。作者のスウィフトは様々な風刺をその物語にちりばめていますが、ガリバーがラグナル島で出会った不死人間であるストラルドブラグの話は今の日本の超高齢社会の問題を先取りしていたかと思えるストーリーです。
ラグナル島に上陸したガリバーは、島の人から、ストラルドブラグという不死人間が島に住んでいると聞いて驚きました。ガリバーは死なないのであれば、学問も究められるし、財産も作れると思い、羨ましくなりました。そこで、すかさずストラルドブラグに会いたいと申し出たのですが、島の人々は会わない方がよいと諭します。なぜならば、彼等は愚痴ばかりで何も前向きなことをしない連中で島民から軽蔑されているというのです。
彼等に会ってみると言われた通り貪欲であり、極めて嫉妬深く、特に若者の放蕩三昧の生活と永遠の憩いの港に行ったと言われて死ぬことができる普通の人間の二つに嫉妬を極めていました。しかも、歳を取ると記憶力も薄れ、何も覚えていない。まさに現代の認知症に似た症状です。こういった実情を見聞して不老長寿を求めていたガリバーの気持ちもすっかり萎えてしまいました。そうしたガリバーに国王が冒頭の言葉をなげかけたのです。
ストラルドブラグの物語は、死を忌避して、話すのが縁起悪いと考える人にはどのように映るのでしょうか。むしろ逆に、ストラルドブラグとして産まれたらどう思うでしょうか。
エンドレスではないから、人生を前向きに戦える。死があるから救われている。死は救いであるという考え方もあるのではないでしょうか。
※「ガリバー旅行記」平井正穂訳 岩波書店