【vol.17】FDRの遺言
公正証書遺言の作成数は年間11万件程度(2017年 日本公証人連合会)に過ぎません。自筆証書遺言の数はわかりませんが、毎年130万人発生する相続に比べてごくわずかです。
昨年民法が改正され、自筆証書遺言の方式緩和と法務局における保管制度などが創設されました。この機会に、「遺言の力」をFDRの遺言から感じていただきましょう。
(FDRは有名な切手の蒐集家であり、数多くの切手の発行に関与しました)
FDRとはアメリカ史上、唯ひとり4選された大統領であり、第二次大戦で連合国を勝利に導き、国際連合の設立に尽力したフランクリン・デラノ・ルーズベルトのイニシャルです。
FDRは障害者(小児麻痺で下肢が不自由)という点においても唯一の大統領であり、一生病気と闘った大統領とも言えるでしょう。幼いことから咽頭が弱く、盲腸が破裂し、1918年のスペイン風邪にも罹患し、高血圧でした。近年左眉上のシミが皮膚がんであり、各所に転位していたとする説が浮上しています。そして、脳卒中で死去したのです。
満身創痍のFDRを個人秘書として支えたのはミッシーことマーガリート・ラハンド。
長身で凛とした美貌の持ち主であり、FDRからは忠実かつ勤勉、また機転と心の優しさから来る立ち振る舞いの魅力を備えていると評価されていました。
ミッシーはFDRの副大統領候補選挙を皮切りに20年にもわたり、第一秘書を務めてきました。毎日夜中まで仕事をするFDRに付き合い、彼が小児麻痺を発症してからは、そのリハビリにも付き添ったのです。また、ルーシー・マーサーとの浮気により妻エレノアとの婚姻関係が破綻していたFDRの第二の妻とも言われる関係でもありました。ミッシーは、このような秘書としての能力と個人的な関係から、大物政治家でもホワイトハウスでFDRと面会するためには、彼女の了解が必要とするほど大きな力を持っていたのです。
そのようなミッシーでしたが、1941年6月脳梗塞で倒れ、右腕、右足の運動機能と筋の通った会話をする能力を失う悲劇に遭遇します。20年にわたる激務とFDRの他の女性への関心が彼女の抵抗力を奪っていってしまったのです。当然、秘書としての仕事はできず、ホワイトハウスを去ることによってFDRとの関係も終焉を迎えます。ミッシーのすべてがこの時失われてしまったのです。
ミッシーの危機に対して、政治家として長年感情を表に出すことを抑制してきたFDRの態度は、周囲から見ると不快なほど冷淡であったようです。しかし、FDRは数年にも及ぶと思われるミッシーの治療のことを知り、24時間の看護体制、医療費の負担、医師への礼状の作成など様々な手を打ちます。そして彼はさらに、自分が死んだ後の彼女を心配して自分の遺言を書き替える決断をしました。
FDRは、5人の子に残すはずであった自身が所有する不動産の半分の権利(当時で300万ドル相当の価値)を「生涯の友人マーガリート・ラハンドの医療・看護・治療に充てるために」遺すように遺言を書き換えたのです。5人の子供たちを相続人から外すことに反対した弁護士に対して、FDRはこう言ったとされています。
「子供たちは自分のことは自分でできるが、この忠実な助手はそれができないのだよ…………」
しかし、ミッシーの使いの残しは5人の子どもに残すように指定されました。信託の機能が遺憾なく発揮されていたのです。
FDRが遺言を書き換えたにもかかわらず、ミッシーはFDRよりも早く、1944年7月30日に亡くなります。結果としては遺言を書き替える必要はありませんでした。そして、FDRは彼女を追うように第二次大戦の終結を待たずに1945年4月12日に亡くなるのです。
この遺言の書き換えは無駄であったでしょうか。
FDRはミッシーとの年齢差と自身の満身創痍の健康状態を考えると、自分の方が早く死ぬと思っていたはずです。
FDRは公私ともに自分に人生を捧げたミッシーに対する自分の責任を遺言に昇華させたのです。遺言を書き換えることで、ミッシーに対するココロの負債を返済したのです。当座の自分の内面を救済した上に、さらに、死後に自身のミッシーに対する想いが明らかにする効果を狙ってのことだったかもしれません。
しかし、それ以上のことを当時のFDRに求めることができたでしょうか。
FDRの遺言は、ミッシーを認知することによって、ミッシーとの関係を永遠のものとしました。
エレノアはFDRの死後「Storyは終わった」と言ったようですが、Storyは死んでお終いではないのです。
遺言にはStoryを死後にも続ける力があると思いませんか………
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<参考図書>
「フランクリン・ローズベルト」ドリス・カーンズ・グッドウィン 中央公論社
「ルーズベルト死の秘密」スティーヴン・ロマゾウ 草思社